遺言執行者とは、遺言書に書かれた内容を現実の名義・資金移動・届出に落とし込み、遺言の効力を具体的に実現する人です。遺言執行者が就職すると、原則として遺言の執行に必要な一切の行為をする権限を持ち、相続人はこれを妨げる行為をできません。実務上は、金融機関での解約・払戻し、受遺者への支払い、遺贈登記や相続登記、株式の名義書換、生命保険金や退職金の受取人が遺言と関係するケースでの整理、各種通知・資料収集などを、段取り良く進める司令塔になります。
遺言執行者を置く意味がとりわけ大きいのは、相続人間での連携が難しい場面です。たとえば、大阪に不動産があり相続登記を急ぐ必要がある、相続人の居住地が分散している、相続人の一部が多忙で書類のやり取りが滞りやすい、といった状況では、誰がどの順番で何をするかが曖昧なだけで、手続きが長期化しがちです。また、期限のある手続きが絡むと、遅れの影響が目に見える形で出ます。相続税の申告・納付は原則として相続の開始があったことを知った日の翌日から10か月以内という期限があり、登記の遅れが税務上の相談や評価資料の収集にも波及することがあります。
遺言執行者の指定のしかたは大きく二つです。第一に、遺言者が遺言書で遺言執行者を指定する方法。第二に、遺言書で指定がない、または指定された遺言執行者が亡くなった等で不在になった場合に、家庭裁判所へ申立てをして選任してもらう方法です。家庭裁判所の遺言執行者選任申立てでは、遺言書1通につき収入印紙800円が必要とされています。遺言執行者を指定しておくと、この選任そのものに時間を取られにくく、相続開始後の初動が安定します。
遺言執行者の役割は財産を配るだけではありません。就職後は、遅滞なく相続財産の目録を作成し相続人へ交付する義務があり、相続人から請求があれば相続人の立会いのもとで作成するか、公証人に作成させる必要があります。実務では、ここで預貯金・証券・不動産・負債・保証・未収金などを棚卸しし、遺言で指定された移転や支払いを、証拠資料と手続き順序を揃えて進めます。遺言の内容に応じては、戸籍や住民票、固定資産評価証明書、残高証明書など、外部機関からの取り寄せが大量になります。
遺言執行者がいないと進めにくいだけでなく、遺言執行者でないとできない手続きがある点も見落としがちです。代表例が、遺言による相続人の廃除です。被相続人が遺言で推定相続人を廃除する意思を表示したとき、遺言執行者は、その遺言が効力を生じた後、遅滞なく家庭裁判所に廃除の請求をしなければならないと民法で定められています。遺言にこうした内容が含まれる可能性がある場合、遺言執行者の指定は任意ではなく、実務上の必須条件として検討することになります。
遺言執行者の費用については、法律で一律の定額が決まっているわけではありません。遺言で報酬を定めることもでき、定めがない場合には家庭裁判所が相続財産の状況その他の事情を考慮して報酬を定めることがあります。実務感覚としては、遺産の規模、相続人の人数、不動産の有無、金融機関・証券会社の口座数、会社関係の有無、手続きが長期化する見込みなどで、作業量が大きく変わります。専門家へ依頼する場合は、報酬体系と実費を分けて確認し、どこまでを遺言執行業務として含むのかを明確にしておくと安心です。